全地はあなたの前にあるではないか。私から別れて行ってくれないか。あなたが左なら、私は右に行こう。あなたが右なら、私は左に行こう。
創世記 13:9
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+
富める者の悩みについて。
アブラムは家畜と銀と金を非常に豊かに持っていた。
(創世記 13:2)
エジプトから逃れ、約束の地に戻ってきたアブラハムは、経済的に恵まれ、多くのものを所有していた。
すると今度は、それらを管理する必要が出てくる。つまり、マネジメントしなければならなくなる。マネジメントする対象は所有するものすべてに及ぶが、その中で、一番難易度が高いのは「人」である。
アブラハムとて例外ではなかった。
アブラハムの集団とは別に、甥のロトもまた自分の集団を形成していた。はじめはお互い小さな集団だったから、エジプトから戻ってきたときはそうではなかった。それぞれが富める者となっていたのだ。
アブラムと一緒に来たロトも、羊の群れや牛の群れ、天幕を所有していた。その地は、彼らが一緒に住むのに十分ではなかった。所有するものが多すぎて、一緒に住めなかったのである。そのため、争いが、アブラムの家畜の牧者たちと、ロトの家畜の牧者たちの間に起こった。そのころ、その地にはカナン人とペリジ人が住んでいた。
(創世記 13:5-7)
こうして身内の争いが起こった。
*
アブラハムにとってロトはどんな存在だったであろう。
先に亡くなった兄の子であるロトをアブラハムが引き取り、一緒にカナンまで移動したのだから、よほどロトのことをかわいがっていたのだろう。
あるいは長旅を共にする身内としてロトを頼りにしていたのかもしれない。ロトの方も、叔父であるアブラハムを慕っていただろうし、尊敬していたのだと思う。双方の合意があったからこそ長旅をともにしたのだろう。
アブラハムとロトの関係は良好であった。
ただ、家畜を管理する牧者たちが土地を巡って諍いを起こしたのである。
アブラムはロトに言った。「私とあなたの間、また私の牧者たちとあなたの牧者たちの間に、争いがないようにしよう。私たちは親類同士なのだから」
(創世記 13:8)
こうして、アブラハムは悩んだ末にロトとの別離を決断した。
決してロトと争うことなく、平和的に解決しようとした。「争いがないようにしよう」と穏やかに声をかけているアブラハムの様子が目に浮かぶ。
*
年長者である自分よりも、年少者の甥であるロトに選択権を与えた。
ロトに対する提案から、アブラハムの誠実さや謙遜さを感じる。もしここで身内で争ってしまったら、神の祝福は台無しになっていただろう。
アブラハムはエジプトに降り、そして約束の地に戻ってきたことで、神への信頼と従順を確固たるものにした。
アブラハムにとっての富は神からのものであった。一方、ロトにとっての富はアブラハムからのものであった。ロトはおそらく知っていた。アブラハムが主の祝福を得ている特別な存在であることを。
だからずっとついていったのかもしれない。この世的に、そして打算的にみればそうなる。
この世での富の捉えかた。
私たちはロト的ではなく、アブラハム的でありたい。富の源泉は人ではなく、神にある。祝福は人からではなく、神からのものである。
そのことを心に留めたい。